前回、私たちは「再現性」について考えました。
現象を客観的に捉えようとすると、同じ条件で確かめる必要が出てきます。
温度、時間、材料、方法など、できるだけ条件をそろえることで、同じ現象がもう一度起こるのかを確かめる。
再現性を高めるために、人は「条件」をつくり始めます。しかし、ここで一つの問題が出てきます。
条件をそろえることは、簡単ではない。
人間が毎回まったく同じ動作をすることはできません。自然の環境も、毎回同じではありません。
そこで人は、条件を一定にするための方法を考えます。
一定の温度を保つ。
一定の力を加える。
一定の長さを測る。
一定の時間を計る。
そのために、さまざまな道具や技術が生まれてきました。
では、技術はなぜ生まれるのでしょうか。ここで、もう一つ前のところまで戻って考えてみます。
「こうしたい」が技術を生む
道具を見ていると、私たちは、「これは何ができるのか」と考えます。しかし、本当はその前に、「何をしたかったのか」があります。
重いものを持ち上げたい。
遠くまで運びたい。
高い場所まで届かせたい。
正確に測りたい。
同じ結果を何度も得たい。
つまり、人間の力だけでは難しいことを実現したい。
そこには、まず「こうしたい」という目的があります。その目的を実現するために、人は方法を考えます。そして、その方法を形にしたものが、道具であり、技術です。
つまり、目的が先にあり、技術はその後に生まれる。これは、②で考えた「条件」ともつながっています。
再現性を高めたい。そのために条件をそろえたい。しかし、人間だけでは条件を一定にすることが難しい。
そこで、その目的を実現するための技術が必要になる。技術は、目的から生まれてくるのです。
道具には「理由」がある
例えば、ハンマーがあります。
ハンマーは物を叩くための道具です。しかし、「物を叩くためにハンマーがある」だけでは、少し説明が足りません。なぜ、人は手で叩くのではなく、ハンマーを使うのでしょうか。
手では十分な力を加えられない。
あるいは、力を効率よく伝えることが難しい。
そこで、人間の手よりも効率よく力を伝える形をつくる。
それがハンマーになります。
スコップも同じです。
土を掘り、すくうという目的がある。
そのために、人間の手とは違う形が必要になる。
クレーンも同じです。もちろん人の手では、ケガや汚れのリスクも避けられません。
人間の力だけでは動かせないものを、別の方法で動かしたい。
その目的から、機械が生まれます。
こうして見ると、道具の形には、それぞれ理由があります。
道具は、目的を実現するために形づくられている。だから道具を見ることは、その道具を必要とした人間が、「何を実現したかったのか」を考えることでもあります。
しかし、道具には「使える条件」がある
ここで、もう一つ考えなければならないことがあります。
技術があれば、何でもできるわけではありません。どんな道具にも、それを使うための条件があります。
クレーンなら、吊り上げる能力だけでは決まりません。
地面の状態。
風。
作業する空間。
周囲の建物。
人や車の動き。
さまざまな条件が関係します。
精密な測定器なら、温度や振動など、測定する環境そのものが結果に影響することもあります。
つまり、道具には「使える条件」がある。そして、その条件の外側には、「環境」があります。
環境が、技術に限界を与える
技術は、人間がつくったものです。しかし、それを使う環境まで、人間の都合に合わせて変えられるとは限りません。
雨が降る。
風が吹く。
地面が軟らかい。
気温が高い。
作業する場所が狭い。
周囲を人や車が通る。
自然や社会の環境は、こちらの計画どおりには動いてくれません。そのため、どれほど優れた道具であっても、環境によって使えないことがあります。
ここで重要なのは、「技術には、必ず限界がある」ということです。その限界は、技術そのものの性能だけで決まるわけではありません。技術を使う「環境」によっても決まります。
だから人は、限界に出会うと、また考えます。
「どうすれば、できるのか。」
条件を変える。
方法を変える。
別の道具を使う。
あるいは、新しい技術をつくる。そこにはまた、そこにはまた、「どうすれば実現できるか」という新しい課題が生まれます。
現場では、目的と技術と環境が重なっている
建設現場を考えてみると、この関係がよく分かります。
何かを建てたい。その目的のために工法を選ぶ。工法に合わせて機械や道具を使う。そのための条件を整える。
しかし、現場には地形があります。
天候があります。
周囲の建物があります。
道路があります。
人や車の流れがあります。
そして、そこで作業する人間がいます。
同じ工法、同じ機械を使ったとしても、現場が変われば条件も変わります。条件が変われば、判断も変わります。
だから現場では、「この技術を使えばよい」だけでは終わりません。
「この目的を、この環境の中でどう実現するか」を考える必要があります。
技術は、単独で存在しているのではありません。目的と、条件と、環境の中にあります。
技術は「万能な答え」ではない
技術という言葉を聞くと、私たちはつい、「できることが増える」という方向だけを考えます。
もちろん、それは技術の大きな役割です。しかし同時に、技術には、
「この条件では使える」
「この条件では使えない」
という境界があります。
だから技術を見るときには、「何ができるのか」だけではなく、「何のために生まれたのか」を見る必要があります。
そして、「どんな条件で使えるのか」さらに、「どんな環境では限界があるのか」まで見る。
すると、技術は単なる便利な道具ではなく、人間が目的を実現しようとして、環境との間につくったものとして見えてきます。
目的と手段の間にあるもの
目的がある。その目的を実現するために、技術が生まれる。
技術を使うために、条件を整える。しかし、その条件には環境という限界がある。
そして、その限界に出会うことで、また新しい技術が生まれる。
そう考えると、
目的 → 手段 → 条件 → 環境 → 限界
という一つの流れが見えてきます。
技術は、目的を実現するための手段です。ところが、その手段が長く使われるようになると、やがて手順になり、仕組みになり、当たり前のものになっていく。
そのとき、人間と技術の関係は、最初と同じままでいられるのでしょうか。目的のために生まれた手段は、いつまでも手段のままでいられるのでしょうか。
次回は、そこから考えてみましょう。
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※ この記事は、合同会社正進(メディア事業)の経験と、現場での考察に基づくものです。正進の母体である正進総合保険企画(2004年開業・損害保険代理店)の知見も含まれますが、建設業に関する専門的な技術的助言ではありません。個別の事案については、必ず専門家にご相談ください。

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